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大阪地方裁判所 昭和31年(ヨ)2726号 判決

申請人 伊藤孝男

被申請人 永大産業株式会社

主文

本件申請を却下する。

訴訟費用は、申請人の負担とする。

事実

第一、申請の趣旨並びに理由

申請人代理人は、「被申請人会社は申請人を被申請人会社の従業員として取扱い、かつ申請人に対し昭和三十年十月六日以降毎月末日限り金一万八千九百円宛を仮に支払え。」との裁判を求め、その理由として、

一、被申請人(以下単に会社ともいう)は従業員約六百名を使用し、輸出合板製造業を営む株式会社であり、申請人は昭和二十八年十月二十六日会社に入社して後、本件解雇になるまで同会社の保安要員として門衛事務一切、工場内外の警戒に従事してきたもので、昭和三十一年十月現在の平均賃金は金一万八千九百円である。

二、被申請人会社は昭和三十一年十月六日申請人に対し、申請人が同年三月及び四月の二ケ月にわたり、会社の許可を受けないで、会社の就業時間外に申請外株式会社太田鉄工所の仕事に従事した事実につき、右の事実は就業規則第七十八条第十一号にいう「許可なく会社以外の業務についた」場合に当るものとなし、懲戒解雇を言渡した。

三、しかしながら、右解雇は就業規則の適用を誤つたもので次の理由により無効である。

(一)  就業規則は本来当該事業場における秩序を維持するため、その責任者である使用者に一方的な制定権を認められているものであるから、その規定し得べき事項はその職場における経営秩序に関する事柄に限定され、就業時間外の、かつ当該事業場外における労働者個人の行動の自由までも拘束し得べきものではなく、仮に就業規則でそのような広範な規定を設けてもそれは無効と解すべきである。従つて、本件における就業規則の前記条項も無制限に一切の内職ないし副業を禁じた趣旨と解すべきものではなく、就業時間中の他への就業のみを禁じた趣旨と解すべきものである。若し、右条項が就業時間外の、かつ当該事業施設外の勤務をも規制の対象とするものであるならばそれは無効である。就業時間外に他へ就業した場合本来の就業に支障を生ずるかどうかは労働者が自由に判断し得べき事柄であるし、使用者としてはこのように他へ就業したことが原因となつて、早退、遅刻、欠勤または職務怠慢等企業秩序を乱すような具体的事実が現われた時に始めてそれぞれの該当条項に従つて取締るべきであり、かつそれで充分である(そして、就業規則第七十七条、第七十八条はかような意味の取締規定に外ならない)。

(二)  ところで、申請人が前記太田鉄工所へ就業したのは被申請人も認めているとおり会社の就業時間外のことであるから、叙上の理由により前記就業規則の条項には該当しない。

従つて、本件解雇は就業規則の適用を誤つたもので無効というべきである。また、若し右就業の事実が右条項に該当するものとすれば、前記のとおりかような条項そのものが無効であるから、右解雇も亦無効といわなければならない。

(三)  そこで、申請人は解雇無効確認、賃金請求等の訴を提起するため準備中であるが、申請人は賃金を唯一の生活のよりどころとしているもので、右訴訟の確定をまつては、その間解雇の取扱いを受けることにより回復し難い損害を蒙るので、これを避けるため、被申請人会社に対し申請人を同会社の従業員として取扱い、かつ申請人に対して昭和三十一年十月六日以降毎月末日限り金一万八千九百円宛の金員の仮の支払を命ずる仮処分命令を求める。

と述べ、被申請人の主張に対し、

一、申請人の経歴詐称の事実はこれを認めるが、当時不法なレッドパーヂを受けたものとして、このことを明らさまにすれば、就職のあては全くなく路頭に迷う外ないためやむなくこれを明らかにしなかつたまでで、しかも右の事実は、会社との間では既に了解がつき済んだ問題である。

二、申請人が解雇予告手当として被申請人主張の金員を受領したことは認めるが、申請人としては生活上やむなく昭和三十一年十月分給料として受領したもので、この旨は直ちに被申請人に通告済である。従つて、申請人は右解雇を承認したものではない。仮に、右金員の受領が解雇の承認ないし同意と認められるとしても、違法無効な解雇がこれにより有効となる筋合のものではない。

と述べた。

第二、被申請人の主張

被申請人代理人は、主文第一項同旨の裁判を求め、答弁として、

一、申請人の主張事実中一及び二記載の事実はこれを認める。

二、本件懲戒解雇―就業規則第七十六条、第七十八条第十一号適用―は次の理由により有効である。

(一)  まず、申請人は就業規則第七十八条第十一号は就業時間外の他への就業を含まない旨主張するが、右条項は就業時間中は勿論就業時間外に会社の許可なく他へ就労した場合をも包含するものである。

およそ、労働者は有機的に組織された企業内でその組織体の一部として使用者の指揮命令に基き債務の本旨にかなう労務の提供をしなければならず、このような企業の特質をなす協同性、継続性から労働者は定時定量の労働力の提供の外に企業の合理的遂行に協力する義務を負担し、経営秩序維持に違反する行為をなし得ない。すなわち、単に就労時間中における稼働の外、就労時間外においても企業の合理的運営に協力すべき範囲内で義務を負担しておるものである。しかして、労働者の提供する労働の価値は就労時間中の稼働能率のみでなく、その本人の誠実、勤勉等の人格的価値をも含み、この両者を包含する労働力を統制把握することが、企業経営秩序の維持ということになるのであり、解雇事由はこのような秩序維持のために不当行為の企業への影響を防止し、企業目的の遂行への不安を除去することを目的として定められているのであるから、就業時間中であるかどうかにより差違を受けるものではない。本件解雇事由である「許可なくして会社以外の業務に従事した」ということは、かような行為が実質的に企業秩序維持のために許されないところであり、また右規定設定の趣旨から解しても就業時間中の場合は勿論、就労時間外の場合をも規定したものというべきである。このことは、社外における犯罪行為等の違反行為が解雇事由に該当するのと同様で、たとえ社外、または時間外の行為であつても企業への影響が著しい場合は解雇事由となるのであつて、このことを規定した就業規則の右条項は有効であるといわなければならない。もとより就業時間外の、かつ当該事業場外における労働者個人の行動の自由は原則として使用者によつて拘束されないと解すべきであるが、この自由は前述の企業秩序を害しない範囲においてでありこれを越えられないものである。

(二)  ところで、申請人の申請外株式会社太田鉄工所への就労は次に述べるとおり著しく職場秩序に違反し、企業目的遂行に害を及ぼすものであつて、右条項に該当する。すなわち、

1 申請人は被申請人会社の保安要員であつて一般従業員と等しく会社の就業規則を遵守し、かつ保安業務規程(申請人は保安要員として、この規程の実施をも承認している)に基いて就労する義務を負うものである。ところで、会社の就業規則第二章「服務」第十条には「従業員は会社の許可がなく会社以外の業務についてはならない」と明白に従業員の職務専念義務を規定しているにかかわらず、申請人はこの義務に違背し、昭和三十一年三、四月の両月にわたつて太田鉄工所にグレーン捲き及び雑役として「大木」という偽名を用いて雇用されたものである。しかも、申請人が太田鉄工所で働いた時間は申請人の主張するとおり会社の就業時間外ではあるが、後記のとおり会社が労働力の再生産上必要として与えた休養時間の殆んど全部に相当し、右従業員の職務専念義務に著しく違背するものというべきである。殊に、申請人は会社の保安要員として、職場規律保持の第一線に従事する重責を負うものであり(保安業務規程第二条第四十六条ないし第五十一条)、自ら不正不都合の行為をなしたときは他の従業員より一等重く処断されることになつており(同規程第十七条(6)号)、一般の従業員以上に会社の信任関係は濃いのであるから、その信任を裏切る申請人の所為が懲戒解雇に値することは言をまたない。

なお、申請人が太田鉄工所に雇用された直後に当る昭和三十一年三月初め頃会社に盗難が発生したので同月六日朝被申請人会社の高橋総務次長は申請人を含む保安要員全員を集めた上右の事実を告げ保安の重責を説いて万遣漏のないように注意を喚起したのであるが、申請人はこれを無視して太田鉄工所への就業を続けたものである。

2 申請人は、当時から肩書住居に居住していたが、右住居から会社に通勤するには往復約三時間近くの時間を要し(太田鉄工所へもほぼ同時間を要す)、また会社から太田鉄工所への往復にも約一時間を要した筈であり、それに食事、入浴の時間を加算すれば毎日の真の休養時間は二ケ月を通じて一日二時間を出ない日が多い。殊に、申請人は、会社で保安要員として夜勤が多かつたのであるから日勤者の疲労度とは比べるべくもなく、従つてただ単に業務上事故を起さなかつたというだけで完全な労務の提供があつたものということはできない。しかして、申請人の太田鉄工所への就労状況は或は会社の勤務時間の終了に引続き就労し(このようなことは就労場所を異にし、一の就労場所から他の場所への移動には少くとも約三十分を要することから物理的に不可能であつて、いずれかの就労場所の就労時間がごまかされたことになる)、或は四月十五日の場合の如きは場所を異にする二つの事業場で同時に就労したことになつており、また偽名を用いて就労する等その不誠実さは従業員としての不適格性を示している。

また、申請人は被申請人会社に入社するに当り経歴を詐称し、昭和二十三年五月頃から武田薬品工業株式会社大阪工場に雇用され、昭和二十五年九月頃規制違反(いわゆるレッドパーヂ)で解雇されたものであるにかかわらず、会社提出の履歴書にはこれを秘し、その頃原籍地で農業に従事していた旨記載していたもので、かような事項はもとより会社が申請人を採用するにつき重大な考慮の要素の一である。しかして右経歴詐称の点は昭和三十年十月頃発覚したのであるが、当時会社の高橋総務次長が申請人の将来を戒め、爾後不都合の行為がないなら特に経歴詐称だけを問題にすることなく、申請人の進退を預るということにしていたところ、申請人が更に本件違反行為に出たので懲戒解雇をなすに至つたものである。

三、仮に右懲戒解雇が不当であるとしても、申請人は右解雇を承認し、昭和三十一年十月二十日解雇予告手当金一万八千九百五十八円を何等異議をさしはさむことなく受領したものであるから、右解雇の不当性は治癒されたものであり、申請人がこの無効を主張することは禁反言の信義則に照し許されないものである。

以上の次第で、本件解雇は有効であるから、申請人の本件仮処分命令申請は失当である。

と述べた。

第三、疎明関係〈省略〉

理由

申請人が被申請人会社に保安要員として雇われ門衛事務一切、工場内外の警戒等に従事していたこと、昭和三十一年三月及び四月の二ケ月にわたり申請人が会社の許可を受けないで就業時間外に申請外株式会社太田鉄工所の仕事に従事したこと、並びに会社が右の事実につき就業規則第七十六条、第七十八条第十一号前段(「許可がなく会社以外の業務についたとき」)を適用し、昭和三十一年十月六日申請人に対し懲戒解雇の言渡をなしたことは、いずれも本件当事者間に争がないところである。

一、そこでまず就業規則第七十八条第十一号前段の解釈、適用の範囲について考察することとする。

成立に争のない乙第一号証(甲第一号証)によれば、被申請人会社の就業規則第十条は「従業員は会社の許可がなく会社以外の業務についてはならない」旨規定し、同規則第七十八条第十一号前段が右第十条違反を懲戒解雇の事由として規定したものであることは明らかである。ところで、右就業規則にいう「許可がなく会社以外の業務についたとき」とは、労働日における就業時間内は勿論、その就業時間外の場合をも規制の対象とするものであるが、就業時間内の場合は、欠勤、遅刻、早退又は職務怠慢等の面から規律しうるし、(就業規則第七十七条第三号、第五号、第七十八条第三号、第四号参照)、又その面からの規律によつて殆んど事態に対処しうるから、右就業規則は寧ろ主として就業時間外の場合を規制する点に重点がおかれていると思われる。

そこで、就業時間外に亘つてかかる就業規則を設ける根拠並びにその効力について検討してみよう。元来使用者が労働基準法の定める一日八時間一週四十八時間の標準労働時間制に従い労働契約を結ぶ場合、従業員は労働契約を通じて一日のうち一定の限られた時間のみ労務に服し、その就業時間外は一般に労働者の自由とされている。かかる労働時間の制限短縮は、労働者の労働力の早期消耗を防ぎ労働者が人たるに値する、健康にして文化的な生活を営むための必要を充たすためであるから、労働者はその自由なる時間を労働力の再生産として休養のため将又種々の社会的経済的文化的需要を充たすために使用することができるものといわなければならない。従つて、例えば従業員は低賃金による家計の苦しさを補助するためにその自由なる時間を利用して家庭内である程度の内職仕事に携わることもできるであろう。この意味において、労働者の自由なる時間は第一義的には労働者のためにある。しかし乍ら、労働者がその自由なる時間を精神的肉体的疲労回復のため適度な休養に用いることは、次の労働日における誠実な労務提供並びに安全衛生に関する事故防止のための基礎的条件をなすものであるから、使用者としても労働者の自由な時間の利用について利害関心をもたざるをえないのである。すでに従業員たる地位にある者がその自由なる時間を利用の自由性に任せて他と継続的雇用関係に入り、例えば一日八時間ないしそれ以上の拘束労働に服することになると、その疲労度は加速度的に累積し、従業員たる地位において要請される誠実な労務の提供は遂には殆んど不可能となるであろうし、安全衛生上の事故の発生、これに伴う使用者側の損害並に各種補償義務負担等の危険性が著しく増大することが当然に予想される。従つて、労働者がすでに従業員である以上、その自由なる時間において他と継続的な雇用関係に入ることは、それ自体従業員たる地位と相容れない結果を伴うものということができる。前記就業規則はこのような理由から設けられているものと解せられるのであつて、就業時間外における「会社以外の業務」とは、家計補助のためになされる内職程度の仕事をも含むものではなく、他と継続的な雇用関係に入ることを指す趣旨に解するのが相当であると同時に、就業時間外の他への就業が企業経営に及ぼす叙上の如き影響を考慮すれば、使用者が企業経営秩序の維持上、就業規則において従業員に対しかかる行為を禁止しこれに違反するものを懲戒処分の対象となしうるものといわなければならない。申請人の見解のうち以上に反する点は当裁判所の採用しないところである。

しかして、前提乙第一号証(甲第一号証)によれば、就業規則第七十六条には懲戒の種類として、譴責、減給、出勤停止、解雇の四種を定める外、その事由が軽微であるか、特に情状酌量の余地があるか、または改悛の情が明らかに認められるときは懲戒を免じて注意、訓戒に止めるか、または懲戒の程度を軽減することができる旨の但し書規定が存することが疎明され、右規定の趣旨は、それぞれの懲戒事由に該当する行為があつても、それが客観的に情状酌量すべきを相当とするものである限りは軽い処分に付すべき拘束を会社に負わしめた趣旨に解するを相当とするから、前記第七十八条に規定する懲戒解雇事由に該当する行為であつて、その情状重く酌量の余地のないもののみが右規定によつて懲戒解雇の対象となり得るものと解すべきである。これを要するに、右第七十八条第十一号前段適用の場合は、就業時間の内外を問わず、会社の許可なしに他へ就業する行為であつてその情の重い場合のみに限られるものといわなければならない。

二、そこで、次に申請人の太田鉄工所への就業がその情重い場合に該当して懲戒解雇に値するか、それとも内職程度のものに過ぎないかどうかにつき考察するに、

(一)  申請人が被申請人会社の保安要員として会社の保安業務に従事していたものであることは前記認定のとおりであり、成立に争のない乙第二号証の一(保安業務規程)によれば、保安要員は職場規律保持の第一線に従事する重責を荷うものであり(特に同規程第二条、第五条、第四十六条ないし第五十一条参照)、このため保安要員は自ら不正不都合の行為をなしたときは一般従業員より罪一等を重く処断されることになつていること(同規程第十七条(6)号)が認められ、しかも、成立に争のない乙第二号証の二の記載によれば、申請人は右業務規程を充分承認の上勤務していたものであることが認められる。そして、かような職掌にある申請人が就業規則に違背することは一般従業員に比しその情は重いものといわなければならない。

(二)  証人高橋一郎の証言、同証人の証言により成立を認められる乙第三号証、成立に争のない乙第四号証(申請人が三月八日太田鉄工場に勤務した旨の表示は三月七日の誤記である)及び申請人本人訊問の結果を総合すると、申請人は太田鉄工所へ「大木保」という偽名を用いて雑役工として本雇用され、昭和三十一年三月二日から同年四月二十三日までの間において二十九日間就業したこと、右就労状況は会社の昼夜勤務の日を除き殆んど連日にわたり、それも会社勤務時間の終了に引続き概ね午前八時ないし九時から午後五時ないし六時まで、遅いときは九時までも勤務し、グレーン捲き及び雑役業務に従事していたもので一日の休息時間は極めて僅かであつたこと、申請人は前記のとおり保安要員としてその間二十四時間勤務の日が十日を算え、その他はすべて十二時間勤務の夜勤であつて、ただでさえその疲労度が高いのに右太田鉄工所への就労により、その疲労度は加速度的に累積して右就労の結果は会社の就労に当然差支えを及ぼす程度のものであつたことが推認できる。このことは申請人本人が、結局右太田鉄工所への就労をやめたのは体が続かないと考えたからである旨供述しているところからも窺えるところである。

(三)  成立に争のない乙第六号証(保安日誌)及び前掲証人高橋一郎の証言によれば、申請人が太田鉄工所に就労するようになつた後である昭和三十一年三月六日被申請人会社の総務次長高橋一郎は当時社内に盗難事故があつたので申請人を含む保安要員全員を会議室に集め盗難予防、場内出入者の取締りの厳正等各員が積極的に勤務するようにとの訓戒を与えた事実が認められるから、申請人のその後の太田鉄工所への就労は右の注意を無視して続けられたものと認めざるを得ない。

(四)  前掲証人高橋一郎の証言によれば、申請人は昭和二十五年十月武田薬品工業株式会社をレッドパーヂにより解雇されたものであるところ、これを秘し、その当時原籍地で農業に従事していた旨被申請人会社へ提出の履歴書に記載し、その経歴を詐称して被申請人会社に入社したもので(以上の事実は当事者間に争がないところである)、右の事実が発覚した昭和三十年十月頃申請人は被申請人会社の高橋総務次長から将来真面目に勤務するならば右経歴詐称の問題は一応預つておく旨を告げられたことが認められる。

(五)  翻えつて、申請人が太田鉄工所に就労するに至つた動機等、太田鉄工所への就労を恕すべきような特別に切迫した事情等についてはこれを認める疎明資料は存しない。

以上認定の申請人の職掌、就労の状況、その程度その他の諸事情一切を総合すれば、申請人の太田鉄工所への就業は単なる内職程度のものとは質を異にし会社の企業秩序を乱すものであるとともに、その情においても重く、酌量の余地のないものと認められるから、申請人の右太田鉄工所への就労行為は就業規則第七十八条第十一号前段に該当するものといわなければならない。

以上の次第で、本件懲戒解雇は有効であつて申請人はすでに会社の従業員ではないから、会社の従業員たる地位についての被保全権利のあることを理由とする申請人の本件仮処分申請はその他の点について判断するまでもなく失当としてこれを却下することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八十九条を適用し主文のとおり判決する。

(裁判官 木下忠良 武居二郎 野田栄一)

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